東芝パソコン事業(TCS)の買収完了

 

シャープは「メビウス」ブランドで手がけていたパソコン事業から2010年に撤退。東芝の事業買収で8年ぶりに再参入する。中国勢らとの価格競争が激しく日本勢はパソコン分野から相次ぎ撤退を迫られた。シャープは親会社である台湾の鴻海精密工業の調達力も活用し、逆張りの買収を成功させる狙いだ。

シャープは「ダイナブック」などのブランドでパソコン事業を展開する東芝子会社を買収した
シャープは約40億円を投じて「ダイナブック」などのブランドでパソコン事業を展開する東芝クライアントソリューション(TCS、東京・江東)の株式の80.1%を取得した。TCSの覚道清文社長は留任し、最高経営責任者(CEO)として引き続き事業運営にあたるが、会長には新たにシャープの石田佳久副社長が就任した。

シャープの戴正呉会長兼社長は6月の買収表明後、「1~2年内に黒字化して投資金額を回収できる」との自信を語った。また将来的には新規株式公開(IPO)も検討すると明らかにした。18年3月期に83億円の営業赤字だったTCSの業績をどう改善するのか。柱となるのが世界最大の電子機器の受託製造サービス(EMS)である鴻海の調達網の活用と、グローバル市場の開拓だ。
シャープは中国に多くの生産拠点を構え、米IT(情報技術)大手からサーバーなどIT機器の生産を大量に受託する鴻海の購買力を生かし、まず原価を低減することで収支を改善する。東芝は中国・杭州市にある工場でパソコンを生産してきたが、この拠点もシャープが取得する。
またシャープは世界規模での販売網の再構築にも取り組む。TCSは構造改革の一環として不採算だった海外事業を縮小しており、現状では国内市場が主体だ。戴氏も買収後の戦略について6月の買収表明当初は「最初の1~2年は『ダイナブック』のブランドが強い国内を固めたい。中国や米国など海外は次のステップだ」と語っていた。
だが9月下旬に戴氏は中国・広東省で現地ディーラー向けに開いた戦略説明会でノートパソコンを含めて現地展開する商品群を一気に拡大させると表明。また8月末から開かれた欧州最大の家電見本市「IFA」でも戦略商品である8Kテレビなどと共に、ノートパソコンも出展するなど、すでに海外を積極開拓していく意欲を見せ始めている。
シャープのパソコン事業を取り巻く環境は必ずしも順風ではない。米調査会社のIDCによると17年の世界のパソコン出荷台数は、米ヒューレット・パッカード(HP)と中国のレノボ・グループ、米デルの上位3社で市場全体の6割を占めた。NECや富士通の事業を傘下に収めたレノボを始め、市場の寡占化が進んでいる。シャープが買収した東芝のシェアは国内では1割程度あるが、世界で見れば1%にも満たない。
パソコンの世界出荷も20年に17年比3%減の2億5200万台まで減る見通しだ。各社とも需要が底堅い法人向けを中心にセキュリティ対策などサービス面を強化することで機器だけに頼らない収益源を創出しようと競う。世界の巨人たちさえも生き残り策を必死に模索する厳しい市場でシャープがどんな差異化戦略を展開できるかが今後の焦点となる。

今回の買収を主導したシャープの石田副社長は「シャープが持つセンサーやカメラ部品を使えばユニークな商品展開もできる」と販売反転に期待を込める。また「(TCSに)400人いる技術者を活用し、(あらゆるモノがネットにつながる)IoT関連の事業でもシナジーを出す」とし、人工知能(AI)やIoT関連のサービス事業への貢献も期待する。

現状では年1500億円規模の売り上げのTCSの経営資源を有効活用し、いかに事業の規模や領域の拡大につなげられるかが、シャープの成長戦略の行方も左右する。

(シャープ、東芝パソコン事業の買収完了 鴻海の調達力活用
エレクトロニクス 関西
2018/10/1 16:09 日本経済新聞 電子版からの抜粋です。)

 

シャープ戴社長、再建開始から2年を振り返る–見直し重ね単身赴任手当は廃止へ

(シャープの代表取締役会長兼社長の戴正呉氏は8月31日、社内イントラネットを通じて、社員向けメッセージを配信した。)

2016年8月に、鴻海傘下での再建が始まってちょうど2年を経過した。節目となった今回のメッセージでは、冒頭に戴会長兼社長は、「一昨年8月に新体制が発足し、2年が経過した。まずはこの間、シャープの成長に向け、私と共に懸命に取り組んでくださった皆さんに改めて感謝する。本当にありがとうございます」と述べ、
「人材育成」に課題、「野心・チャレンジ精神」は不十分と指摘
だが、メッセージのタイトルが、「“強い決心”を持って、困難に立ち向かおう」としたように、社員に対して、厳しい要望や指摘を行う内容となった。

最初に触れたのが、8月中旬に実施した全ビジネスユニット(BU)責任者を対象としたアンケート調査の件だ。

シャープの代表取締役会長兼社長の戴正呉氏

シャープの代表取締役会長兼社長の戴正呉氏
「この2年間のさまざまな施策の実行や、所属員の意識改革について自己評価してもらうとともに、大きく変化したと実感することや見直すべき施策などについて意見をもらった」とし、「施策の実行」については、「ビジネスモデルの変革」、「ビジネスプロセスの見直し」、「コスト削減」の3つの項目についてはしっかりと取り組めたとした。
一方で、「グローバル事業拡大」は事業や地域によって進捗に差が見られた結果や、多くのBU責任者が、取り組みが不十分であったと自己評価している項目が「人材育成」であったことを紹介。「今回の調査は組織のリーダーを対象としたものにもかかわらず、リーダーの最も重要なミッションとも言える『人材育成』に大きな課題があるという結果に、私は強い危機感を覚えている。人材を育成する上で、集合研修などの研修プログラムによるトレーニングも大切だが、これはあくまでも基本的な知識の習得が中心であり、これだけでは本当に強い人材は育たない」と危機感を持っていることを説明した。

さらに「日々の業務において、リーダーが、部下に意識的に課題を与え、常にその進捗を確認し、必要に応じて軌道修正を指導し、これを何度も繰り返すことが極めて重要である。BU責任者に限らず、すべてのリーダーは、いま一度これを肝に銘じ、日々の業務の中で意図的に人材育成に取り組んでほしい」と続けた。
「所属員の意識改革」に関する調査では、「スピード」、「野心・チャレンジ精神」、「革新性・新しい発想」、「粘り強さ」、「One SHARP」のすべての項目で概ね良い評価となったが、「私の見方は少し違う」と厳しく指摘した。

「確かに、『スピード』や『粘り強さ』では大きな改善が見られるが、とくに、『野心・チャレンジ精神』については、まだまだ不十分である。現在、当社が置かれている事業環境は、中期経営計画策定時の想定から変化している項目も数多くあり、社員全員がさらに意識を高め、次々と新たな挑戦をし続けなければ、計画達成は困難である。各部門長の強力なリーダーシップの下、さらなる野心を持って、仕事に取り組んでいただきたい」と要望した。
「多くのBU責任者が、高い意識を持った社員の裾野を広げ、組織の総合力を向上させることを、今後の課題にあげていく。各部門長は、いま一度自部門の状況を確認するとともに、これまで以上に隅々まで目を配った組織運営を心掛けてほしい」とした。

社員が1つの事業に深く携わることが本当に強い会社を作る
また、アンケート調査では、各BU責任者からの意見の中に、グローバル人材の育成や確保を狙いとした海外駐在制度の復活に関する意見が数多くあったことに触れ、「しかしながら、海外駐在では、本社や事業本部との距離が離れることによって、各拠点が全社の方針からずれた動きとなる懸念がある。駐在を置かないことにより、多くの社員に海外出張の機会を与えることができ、各拠点における日常業務をナショナルスタッフに任せることで、ナショナルスタッフの育成、ひいては経営の現地化にもつなげることができる。こうした理由から、現在の年間180日を上限とした出張ベースでの海外派遣が、グローバル人材の育成においても有効だと考えている」と回答した。
幅広い事業や職種の経験を積んだ人材を育てることを狙いとした社内ローテーション制度の導入を希望する声に対しては、「本当に強い会社を作るためには、事業に精通した人材を数多く育成することが重要であり、私は社員の皆さんに、さまざまな事業を転々とするのではなく、1つの事業に深く携わっていただきたいと考えている」と、戴会長兼社長自らの意見を述べた。
そして、「もちろん、幅広い経験を積み、視野を広げることは重要である。現在のシャープには、“One SHARP”の方針のもと、他本部と業務で連携する機会や、勉強会などで他本部の情報を得る機会が数多くある。こうした機会を積極的に活用し、自らの成長につなげていただきたい」とした。

一方で、8月31日から、独ベルリンで開催されている「IFA 2018」に、2017年に続き出展したことや、開幕に先立って、記者会見を開催し、取締役副社長の石田佳久氏から欧州事業の本格展開について説明したこと、「AQUOS 8K」が、欧州の家電業界団体であるEISA(欧州映像・音響協会)が選定する「EISA AWARD MONITOR INNOVATION 2018-2019」を受賞したことに触れ、欧州における本格的な事業拡大を進める姿勢を強調した。
「欧州では2017年、“SHARP IS BACK”を宣言し、AQUOS 8Kを筆頭としたテレビ事業の再構築やスマートフォン市場への参入を進めるなど、事業拡大に向けた一歩を踏み出した。今2018年は、IFA 2018を皮切りに、より本格的な事業拡大フェーズへと突入していく。具体的には、AQUOS 8Kのラインアップを拡大するとともに、サウンドバーの新展開をはじめとした周辺機器の強化により、『AQUOS 8K WORLD』を構築していく。さらには、スマートフォンや白物家電などで、カテゴリーやラインアップを拡大していく」とした。
続けて、「海外事業比率80%の達成を目指している当社にとって、欧州事業の拡大は非常に大きな意味を持つ。現地に出張している関係部門の方々は、ぜひこれまで以上に積極的な姿勢で、新たなビジネスの獲得に挑んでほしい」とした。

難易度の高い取り組みこそ、躊躇せず断行すべき
3つめの話題のタイトルを「強い決心」とした。戴会長兼社長は、「これまで2年間、経営基本方針に沿ってさまざまな構造改革を実行してきたが、関係者に与える影響が非常に大きいなど、難易度が高い施策については、実行のタイミングを慎重に見定めてきたものがいくつかある」と前置きし、矢板事業所のTVシステム事業関連メンバーの堺、幕張への集約、八尾事業所における冷蔵庫生産の終息はこれに当たるとした。
また、単身赴任手当の見直しも同様に慎重に検討を重ねてきた案件の1つであることを明かし、「今回、いよいよ実行に移すことにした。マネージャーについては、2016年10月から支給を凍結してきたが、2019年1月1日以降、特定の業務に従事する従業員を除き、全面的に手当を廃止する」とした。
その一方で「緩和策として、寮費の実質無償化や単身帰宅交通費の支給回数増加等を検討している」とし、「今回の手当の廃止は、経費削減だけが目的ではなく、構造改革実施時を除く平常時において、単身赴任を解消し、社員が家族と一緒に暮らせる環境を作ることも重要な目的であり、各部門とも、本部長の指揮のもと、こうした人員適正化の取り組みを加速してもらいたい」と述べた。

そして「私は、本来このような難易度の高い取り組みこそ、躊躇せず、『強い決心』を持って、速やかに断行すべきであったと考えている。なぜなら、課題から目を背け、先送りすれば、いずれは、さらに大きな課題や、事業そのものの継続を脅かす火種となって必ず返ってくるからである。もし、そのような事態に陥れば、結果的に社員を、もっと不幸にすることになる。各組織においても、いかなる困難に直面しても、決して逃げることなく、『強い決心』を持って立ち向かってほしい」と、自らの考えを述べた。
リーダーのさらなる奮起を期待している
テレビ東京系列で、「ガイアの夜明け」でシャープが取り上げられたことも紹介した。
「『独占!復活のシャープ』というタイトルで、当社の取り組みが1時間放映された。このタイトルからもわかる通り、私たちのこれまでの取り組みは、社外からも高く評価されている。また、番組内では、私の経営基本方針に沿って、ビジネスモデルの変革の観点から、ペット事業への参入や『ヘルシオデリ』のサービス開発について、コスト意識の向上の観点から、鴻海との協業による『ホットクック』のコストダウンについて、グローバル事業拡大の観点から、ASEANにおけるローカルフィット商品の取り組みが紹介され、さらに、信賞必罰の人事の具体事例についても紹介された」と内容について触れた。
さらに「私は、一部の社員と共に、堺匠寮誠意館の食堂でこの番組を見たが、番組で紹介されたリーダーの皆さんの発言から、私の経営基本方針が浸透している様子が、改めて垣間見えたことをうれしく思った。番組の冒頭でも触れられていた通り、私はシャープ復活のポイントは、リーダーの意識を変えることにあると考えている。アンケート調査の結果に関しては、意識改革を隅々まで浸透させることが今後の課題と話したが、そのためには、まずリーダー自らがより高い意識を持つことが重要である。リーダーのさらなる奮起を期待している」とした。

最後に戴会長兼社長は、「上期計画の達成に向け、最後まで全力で取り組んでほしい」とし、「8月25日以降、4日間に亘って、2018年度下期経営計画検討会を開催し、上期計画に齟齬が生じている事業の挽回策や、IoT HE事業本部などの新体制発足を踏まえた新たな取り組みと計画の積み上げなど、年間計画を必ず成し遂げるべく、さまざまな観点から議論を重ねてきた。依然として厳しい事業環境が続いているが、立てた計画は必ず有言実現する。これも、私の『強い決心』である。社員の皆さんも、こうした決心を持ち、計画達成に向け、全社一丸となって頑張っていこう」とした。

今回のメッセージは、戴会長兼社長の経営手法や物事の考え方を披露するとともに、社員に対して厳しい指摘をしながら、その手法を社員に理解してもらいたいという思いが垣間見られた。

(このニュースは2018年08月31日発行のclnet japanから引用したものです)

小売り・物流向けの新端末 女性や高齢者も使いやすく

2018/8/21 13:38  日経新聞電子版より抜粋

シャープは21日、コンビニエンスストアや物流倉庫で商品管理に使う業務用ハンディーターミナルの新製品を9月中旬に発売すると発表した。
従来機より本体の幅を細くしたり、大きな液晶タッチパネルを搭載したりすることで女性や高齢者でも使いやすいデザインにした。人手不足が深刻な業界を中心に販売する。

ディスプレー部分の幅を75ミリメートルと従来に比べて4ミリメートル細くし、小さな手でも握りやすくした。
液晶タッチパネルには4型を採用した。従来の3.7型に比べて、画面上に3割以上多い情報量を表示できる。
光学式文字読み取り装置(OCR)機能を搭載した製品も併せて発売する。OCRを搭載した製品は、従来のバーコードやQRコード以外にアルファベットや数字などの文字情報も読み取ることができる。賞味期限の数字などは従来目視で確認していたが、高齢者など細かい字が見にくいスタッフにとっては負担が大きかった。
希望小売価格はオープンで、実売価格は税別11万~12万円前後、OCR機能を搭載した製品は14万~15万円前後を想定している。
生産は国内の協力工場が担う。月産台数は700台、OCR搭載製品は200台としている。

ウォーターオーブン「ヘルシオ」2機種を発売

「ヘルシオ」初、調理中に過熱水蒸気量の手動コントロールが可能<AX-XS500>ウォーターオーブン「ヘルシオ」2機種を発売

ウォーターオーブン ヘルシオ


上段左から <AX-XS500-R(レッド系)><AX-XS500-W(ホワイト系)>
下段 <AX-CA450-W(ホワイト系)>

シャープは、ウォーターオーブン「ヘルシオ」で初めて調理中の過熱水蒸気量のコントロールを可能とし、好評の「まかせて調理」機能も搭載した「ヘルシオ」<AX-XS500>など2機種を発売します。

詳細は下記リンクの~シャープニュースリリース8月9日号~を確認ください。http://www.sharp.co.jp/corporate/news/180809-a.html

「IoTを活用した新産業モデル創出基盤整備事業」に参画

ライフデータのクラウド利用環境整備と、超高齢社会に貢献するサービスの創出を目指すNEDOの「IoTを活用した新産業モデル創出基盤整備事業」に参画します。

シャープ株式会社、KDDI株式会社、コニカミノルタ株式会社、セコム株式会社の4社は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)が推進するプロジェクト「IoTを活用した新産業基盤整備事業/IoT技術を活用したライフデータの高度利用システムの開発(以下、本プロジェクト)」に参画します。

詳細は下記リンクの~シャープニュースリリース8月3日号~を確認ください。 http://www.sharp.co.jp/corporate/news/180802-b.html

AIoT対応液晶テレビ「AQUOS」向け動画配信サービス視聴用アプリケーションをバージョンアップ

AIoT※1対応液晶テレビ「AQUOS※2」向け動画配信サービス
『COCORO VIDEO』視聴用アプリケーションの新バージョンを8/1より提供開始

詳細は下記リンクの~シャープニュースリリース8月1日号~を確認ください

http://www.sharp.co.jp/corporate/news/180801-a.html

<これからもAIoTによる事業拡大を期待し応援しましょう>

シャープ戴社長「2019年度まで続投」会長も兼務

2018/5/11 19:44  日本経済新聞 電子版より

 シャープの戴正呉社長が現在の中期計画が完了する2020年3月期まで社長に留任することが11日明らかになった。社員向けに同日「将来に向け、中期経営計画後の新たな社長の育成・選出に取り組んでいく」としたメッセージを送った。戴社長はかねて東証1部復帰後の退任を示唆してきた。翻意の裏に明確な後任候補の不在と、経営環境の急激な変化がある。

 

 

戴正呉 シャープ社長

 

シャープは同日、戴社長が6月20日付で会長を兼務する人事もあわせて発表した。
戴社長はシャープが台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入った16年8月に就任した。抜本的な構造改革で業績をV字回復させ、17年12月には自身の社長退任のメドとしてきた東証1部への復帰も果たした。この際には「社長を退任したい気持ちは変わらないが、19年3月期以降の経営体制は取締役会と株主総会に判断を委ねる」と進退は保留していた。
今年1月からは経営を共同CEO(最高経営責任者)制に移行し、自身に集中していた決裁権限などを野村勝明副社長ら3人にも委譲。次期社長の候補者を育成する仕組みも構築したが、まだ道は半ばだ。
部材調達や販売面で親会社の鴻海との連携も深まるが、取引でシャープが不利な条件を被らないのは鴻海グループの副総裁でもある戴社長の存在が大きい。「戴社長に代わる人材はいない」。幹部らは口をそろえる。
経営環境も変化している。18年3月期の最終利益は予想を達成したが、米アップル向けの電子デバイスの落ち込みなどが響き、売上高は2兆4272億円と予想を800億円超、下回った。
戴社長が「必達目標」と語る中計の最終年度である20年3月期に掲げる売上高目標は3兆2500億円。2年で8千億円以上を積み増す必要がある。成長の核に据える高精細映像技術「8K」や人工知能(AI)といった分野の収益化もまだ途上にある。
「中期経営計画達成に改めて強い責任を感じており、より一層の努力を積み重ねていきたい」。戴社長は社員へのメッセージにこう記した。社長留任の腹を固めた戴氏は、やや高めの目標である中計の達成に向けた具体策が問われる。

「中期計画2年目のスタート」に向けて 戴社長がメッセージ

シャープの代表取締役社長である戴正呉氏は2月26日、社内イントラネットを通じて、社員に向けてメッセージを発信した。これまでにも社長就任以来、月1回のペースで配信してきたが、今回は2018年に入って最初のメッセージとなった。

「中期経営計画2年目のスタートに向けて」と題した今回のメッセージでは、

「昨年末以降、中国や台湾などへの出張が続き、その後旧正月を終え、ようやく今年初めて日本に戻ってきた。こうした事情から、前回の社長メッセージからしばらく時間が空いてしまったが、本日、2018年最初のメッセージを発信する」とし、2018年に入ってからの2カ月間を総括する内容も盛り込まれた。
だが、最初に触れたのは、業績についてだ。「2017年度第3四半期までは、売上げ、利益ともに順調に推移してきたが、第4四半期に入ってからは、市場環境の変化などを背景に、厳しい状況が続いている。今年度も残すところ約1カ月となったが、全員がいま一度、気を引き締め、対外公表値の達成に向け、全力で取り組んでほしい」と、手綱を締めるところからメッセージは始まった。
戴社長らしい切り出し方だといえよう。
続いて「4月からは、中期経営計画2年目がスタートする。そこで、このメッセージでは、中期経営計画の完遂に向け、私たちが持たなくてはならない心構えと、2018年度に重点的に取り組むべき課題、『事業ビジョンの具現化』と『飛躍的な売上拡大』について話す」と、今回のメッセージの主旨を示した。

「中期経営計画完遂に向けた心構え」

「中期経営計画完遂に向けた心構え」として、戴社長はあるミーティングで、「飛躍的な事業拡大を果たしていくためには“Game Changer”にならなくてはならない」という話を聞いたことに触れ、「当社の100年を超える歴史を振り返ると、当社は“真似される商品をつくれ”という早川徳次創業者の精神のもと、国産第1号の鉱石ラジオや国産第1号のテレビ、国内初の量産電子レンジ、世界初のオールトランジスタ電卓、世界初の液晶表示電卓、世界初の14型TFTカラー液晶ディスプレイ、液晶ビューカム、カメラ付き携帯電話、液晶テレビなど、人々の生活を変える画期的な商品を数多く生み出してきた。こうした商品には、次々と競合他社が追随してきたが、これは、当社が競争ルールそのものを変え、競争のステージを自らの土俵に持ち込み、そして主導権を握る“Game Changer”であったからだと言える。これこそが、シャープの伝統であり、原点“Be Original.”である」と断言した。
しかし「直近でも、AQUOS 8Kなど、注目される商品を生み出しているが、これで当社が“Game Changer”であると言えるだろうか。皆さんも自らを振り返っていただきたいが、私は決して満足していない。中期経営計画では、次の100年に向けたトランスフォーメーションの実現、『8KとAIoTで世界を変える』と宣言しているが、これは当社が再び“Game Changer”になるという宣言でもある」と厳しい口調で語り、「8Kエコシステムでは、AQUOS 8Kや8Kカムコーダーといった個別商品に留まらず、放送や医療など、バリューチェーン全体で、これまでにない大きなゲームチェンジを目指していく。自社での研究開発の強化だけでなく、幅広いパートナーとの連携を加速し、事業化につなげていくことが極めて重要になる。8Kエコシステムと同様に、AIoTやさまざまな事業分野で、ゲームチェンジに挑戦していただきたい」と期待した。

IoT事業本部を新設しシャープ製品のAIoT化を加速

事業ビジョンである「8KとAIoTで世界を変える」の具現化については、8KエコシステムとAIoTに分けて言及した。
8Kエコシステムでは、米ラスベガスで開催されたCES 2018に、2015年以来、3年ぶりに出展し、米国の取引先やメディアに「8Kエコシステム」の取り組みを紹介したことに触れ、「世界最大の市場である米国は、私たちが8Kエコシステムを構築し、グローバルで8K市場を牽引していくうえで、極めて重要な国のひとつである。4月に米ラスベガスで開催されるNAB 2018にも出展するなど、さまざまな機会をとらえて、積極的に8Kエコシステムの取り組みをアピールする」と語った。
また、1月25日には、プロサッカークラブ「セレッソ大阪」とのスポンサー契約締結を発表し、「ヤンマースタジアム長居」および公園内へのシャープロゴの掲出や、セレッソ大阪と連携したプロモーション活動の展開、各施設への8K関連製品の導入を進め、「多くの方々に8Kの素晴らしさを体験していただきたいと考えている」と述べた。
さらに、2月11日に、台湾で開催した鴻海グループの忘年会についても説明。「会場には、CEATECでの展示規模を上回るほどの大きなシャープブースを設け、出席した3万5000人以上の鴻海グループの社員とその家族、さらには約200人のメディア関係者に、8KやAIoTに関するさまざまな商品を体験してもらった」とし、「なかでも、8Kディスプレイつなぎ合わせて作った26メートルの巨大スクリーンに、台湾の故宮博物院が所蔵している『清明上河図』を完全再現した。この展示が、『まるで本物のようだ』と言われ、非常に大きな注目を浴びた。こうした取り組みを足掛かりに、美術や芸術の分野における8K技術の活用を進め、将来的には、全世界に8K博物館を展開していきたいと考えている」とした。
一方で、AIoTについては、CES 2018において、AIやIoT、5G、AR、VR、スマートシティに関する展示が活況であり、各社がしのぎを削って新たな提案を行っていたことに触れ、「このような激しいグローバル競争のなかで、当社が競争優位を構築していくためには、事業間の連携を一層強化し、幅広い事業領域を持つ当社の強みを最大化するとともに、世の中の技術やサービスの進化を的確に捉え、外部の機器メーカーやサービス事業者と幅広く連携することが肝要である」と前置きし、「こうした狙いのもと、1月1日付けで、IoT事業本部を新設した。今後はIoT事業本部が中心となり、シャープ製品のAIoT化の加速や、AIoTサービスプラットフォームの早期確立に取り組むとともに、外部リソースとの協業を積極的に展開することを期待している」と語った。

鴻海グループの忘年会ではCEATECでの展示規模を上回るほどの
大きなシャープブースが設けられた。

また、1月20日に「工業インターネット(Industry 4.0)」、「スマートファクトリー」、「COCORO+サービス」をテーマに、2月24日には「AI」をテーマに、それぞれ勉強会を開催したことを紹介。

「今後もこうした取り組みを積み重ね、社員のみなさんの知識の底上げを図り、AIoTの取り組みを活性化していきたい」と述べるとともに、「AIoT戦略の成功の鍵は、社内の連携、すなわち“One SHARP”の実践と、外部リソースの活用である。これからも全社一丸となって、『人に寄り添うIoT』の早期実現を果たしていこう」と呼びかけた。
従来の延長線上にない新しい取り組みを実行する

最後のテーマとした「飛躍的な売上拡大」では、

2018年度の業績目標について触れ「2018年度は2017年度通期業績予想と比べて、売上高で約15%増、3800億円もの大幅な拡大を目指している。しかし、市場環境はより一層厳しくなってきており、この目標を達成するためには、他社との協業など、従来の延長線上にない新しい取り組みを、矢継ぎ早に実行していかなくてはならない」とし、「こうしたなか、最も重要な取り組みのひとつが、鴻海グループとの連携の深化であり、1月8日から3日間に渡って、中国・深センで開催した事業拡大会議を皮切りに、シャープの各事業本部長と鴻海グループの責任者が、さまざまな観点からさらなる連携強化について協議を重ねている」と報告。ここでは、開発強化として、鴻海グループとの技術交流会を継続開催したり、8Kや5Gなど、両社が持つ最先端技術を融合した新たな商品の開発を加速したりといった例を紹介。また、販売拡大では、中国における鴻海グループの販売網を活用し、売上げの大幅伸長を達成したテレビ事業での協業モデルを、白物家電や通信分野でも展開していくことを示した。さらに、ビジネスモデルの連携では、鴻海グループの子会社であるFITと、車載カメラ事業における合弁会社設立を決定したことを紹介した。
「こうした取り組みを、一刻も早く具体化し、事業拡大につなげてくれることを期待している」と述べた。
そのほか、「従来から進めてきたASEAN事業の拡大に向けた取り組みも一層強化しており、1月7日にはASEAN営業拡大会議を、2月2日にはASEAN宣伝・プロモーション関係者交流会議をそれぞれ開催し、事業拡大策の具体化を進めてきた」としたのに加え、「下期以降、これまでにない積極的な姿勢で、ASEAN各国におけるPR活動を立て続けに行ってきた。さらに、1月26日と2月6日にタイでディーラー大会を、2月8日にインドネシアで新製品発表会を開催するなど、そのスピードを一段と加速している」と述べ、「飛躍的な売上拡大を実現するためには、事業の軸足を日本から海外へと移していかなくてはならない。中国やASEANのみならず、今後は欧州や米州における事業拡大にも積極的に取り組む。グローバルでビジネスを拡大していこう」と述べた。
メッセージの最後に戴社長は、「みなさんの努力のお陰で、2017年度は業績の大幅な回復を実現できる見通しにあるが、こうしたなかで私は、みなさんの心の中に気の緩みが生まれているのではないか、と非常に強く危惧している。当社は、依然として再生の途上にあり、中期経営計画を完遂してこそ、真の再生が成し遂げられるということを改めて認識していただきたい。今日のメッセージを、みなさん一人ひとりが肝に銘じ、2017年度の着地と、2018年度の飛躍に全力を尽くしてほしい」と締めくくった。

           CES 2018のシャープブース

(この記事は、三重地区だよりVol.93より転載したものです)

シャープ・鴻海、車載カメラで合弁 技術と生産力融合

2018.2.24 日経電子版から抜粋

シャープと親会社の台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業は
 車載カメラ事業で合弁会社を設立する。

鴻海子会社と共同出資で約30億円を投じ、車載カメラや電子ミラーの開発、製造から販売までをグループ一体で担う。車の電装化が進むなか、シャープの技術力と鴻海の量産技術や販路を掛け合わせ、世界の自動車大手への納入拡大を目指す。
出資比率は鴻海51%、シャープ49%。シャープは車載カメラの開発や設計を手掛けており、世界最大の電子機器の受託製造サービス(EMS)である鴻海のノウハウで量産体制を整える。鴻海がもつ中国、台湾、北米などの販路も生かす。
車の電装化や自動運転の需要拡大に対応する。シャープは高精細な8Kの分野に力を入れ、対応のテレビや業務用のカメラを手掛けている。将来は8K車載カメラの開発を目指す。
シャープは2019年度を最終年度とする中期経営計画で車載カメラを含むデバイス関連部門で16年度の約2倍の8千億円以上の売上高を目指している。成長が見込め技術も持つ分野で生産体制を整え、収益を広げる。

ベトナムにおいて太陽光発電所(メガソーラー)の建設を受注

シャープは、ベトナムにおける太陽光発電所(メガソーラー)の建設を、Thanh Thanh Cong Group(以下、TTCグループ)※2傘下のGia Lai Electricity Joint Stock Company(以下、GEC社)※3より受注しました。2月23日に、TTCグループおよびGEC社と現地にて調印式を行いました。
本発電所は、ベトナム北中部のトゥアティエン・フエ省に建設します。約48MW-dcの大規模出力で、年間予測発電量は約61,570MWh/年となり、ベトナムの一般的な家庭の年間消費電力量で換算すると、約32,628世帯分に相当します。
ベトナム政府は、太陽光発電の施設容量を2030年までに12,000MWに引き上げることを計画※4しています。当社は、本発電所の建設を契機に、ベトナム各地への太陽光発電所の設置を積極的に提案し、再生可能エネルギーのさらなる普及に貢献してまいります。
発電所の概要

※1 1世帯当り1,887kWhにて算出。
※2 不動産、エネルギー、農業、教育などを手掛ける複合企業。
※3 太陽光、水力、風力発電などの再生可能エネルギー事業の中核を担う、TTCグループ傘下の合弁企業。
※4 ベトナム政府が策定する第7次電力開発計画(PDP7)に、2011年~2020年の計画と2030年までのビジョンが示されています。
PDP7において、ベトナムの太陽光発電の施設容量を、2020年までに850MW、2030年までに12,000MWにすることが計画されています。
※5 1MWh当り0.333t-CO2にて算出。

≪20182/26 シャープニュースリリースからコピーした記事です≫

 

「ロケット・ササキ」死去 孫氏とジョブズ氏に残した志

少し長いですが佐々木副社長の逸話を新聞記事から抜粋してご紹介します。

元シャープ副社長で、同社を世界的な電機メーカーに育てた人物として知られる佐々木正氏が死去した。102歳だった。ロケット・ササキの異名で知られる敏腕もさることながら、「共創の哲学」を掲げて公私にわたり若手経営者を育てたことは今も語り草だ。
「佐々木先生との出会いがなければ今の私とソフトバンクはありません。私と弊社だけの恩人ではなく、日本の先端電子技術の礎を築かれた日本にとっての大恩人です」
ソフトバンクグルー少しプの孫正義会長兼社長は佐々木氏の訃報に接した2日深夜、こんなコメントを送ってきた。孫氏が大恩人と呼ぶのは決して大げさではない。事実、佐々木氏との出会いがなければ孫氏の成功もなかったかもしれない。話は40年前にさかのぼる。

佐々木正氏(右)は若手時代の孫正義氏を支え続けた

 

 

  • 「孫正義は私が保証します」
    1978年8月。21歳の孫氏は、むせかえるような暑さを気にも留めずに電話ボックスの中で受話器を握りしめていた。留学中の米カリフォルニア大学バークレー校から一時帰国していた時のことだ。
    在日韓国人3世として住所もない無番地で生まれ育った孫氏が「事業家になってここからはい上がりたい」という思いに駆られ、起業家としての第一歩を踏み出したのがこの時だった。大学教授を仲間につけて開発した音声機能付き電子翻訳機。その売り先を探して日本に帰ったが、まともに話を聞いてくれる大人はいなかった。最後の望みを託して電話をかけたのがシャープだった。
    大切そうに翻訳機を風呂敷から取り出す孫氏の目をじっと見つめた佐々木氏。「もう目がらんらんと輝いていてね。この子は何か違う、力になりたいと思いました」。それから40年近くがたち、記者の取材に応じた佐々木氏は昨日のことのように覚えていると当時を懐かしんだ。
    突然現れた学生に手をさしのべた佐々木氏。研究費として最大1億6000万円出すと言う。この資金を元手に、大学を卒業して帰国した孫氏が日本ソフトバンク(当時)を設立した。

それからも佐々木氏はこの若き起業家を成功へと導く。創業直後に孫氏が資金繰りに窮していることを知った佐々木氏は銀行幹部に電話を入れた。「孫正義という男は私が保証します」。すでに日本の産業界では広く知られる存在だった佐々木氏の懇願を耳にした銀行トップが、その幹部に孫氏への融資を命じた。もし佐々木氏の後押しがなければ、孫氏の野望はこの時にあっけなくついえていたかもしれない。
「実は私も妻に怒られたんですよ」と回想する佐々木氏。孫氏への融資を実現するためなら「自分の退職金と自宅を担保にしてもいい」とまで、銀行に切り出したのだと言う。
それにしてもなぜそこまで――。そう問うた記者に返した言葉は、ひと言だけだった。
「それはねぇ、かわいいからだよ」
この話を孫氏に直接伝えたところ、孫氏は感極まったような表情で語り始めた。
「佐々木先生は僕にとっては仏様のような恩人だ。だって僕はなんの見返りも提供していないんだよ。そんな僕の未来を信じて応援してくださった。その純粋さに、頭が下がるとしか言えないよ」
1915年(大正4年)に島根県浜田市で生まれた佐々木氏は幼くして台湾に渡る。京都帝国大学を出て真空管工場で働き始めるが、ほどなく軍の研究にかり出された。レーダーの技術を求めてシベリア鉄道でドイツに渡るが戦況が悪化。レーダーの設計図のコピーを手に、ドイツ軍の小型潜水艦「Uボート」で命からがら帰国した。この時、設計図の原本を持ち他の潜水艦で日本を目指した少佐はシンガポール沖で撃沈されて帰らぬ人となった。 拾った命とばかりに研究に没頭した佐々木氏はトランジスタの将来性をいち早く見抜いた。その佐々木氏の炯(けい)眼を認め、三顧の礼で迎えたのが早川電機工業(現シャープ)創業者の早川徳次氏と、同社中興の祖と呼ばれる元社長の佐伯旭氏だった。
シャープの技術陣を率いた佐々木氏はカシオ計算機との電卓戦争に打って出る。今ではスマホの一機能でしかない電卓だが、当時は電機産業のけん引役だった。手のひらに載るサイズを目指す開発競争は、半導体の猛烈な進化を呼び、それがテレビなど他の家電製品の技術革新を生むサイクルを築いた。まさに「電子立国ニッポン」誕生の起爆剤となったのだ。
この頃の佐々木氏に感銘を受けた米ロックウェル社の幹部が、同氏に一枚の絵を贈った。
シャープと書かれたロケットに笑顔でまたがるスーツ姿の佐々木氏。ロケット・ササキの愛称には、めまぐるしく変わるテクノロジーの先端へと常に挑戦する佐々木氏への畏敬の念が込められていた。

 

 

(佐々木氏の名刺の裏にはお気に入りのイラストが描かれていた)

 

 

 

  • ジョブス氏の目は「キラキラしていた」
    佐々木氏を頼った大物起業家は孫氏だけではない。その日のことも、佐々木氏はやはり昨日のことのように覚えていた。
    「妙な外国人がドクターと会いたいと言っています」。シャープの東京事務所にいた佐々木氏は、秘書からこんな連絡を受けた。佐々木氏に近しい人物は彼をドクターと呼んでいた。
    訪れたのは若き日のスティーブ・ジョブズ氏だった。身なりはひどいものだった。ボサボサの長髪でTシャツにジーンズ。足元はサンダルだった。しかもソファに座るなりあぐらをかく。この当時、ジョブズ氏は自ら創業したアップルを追放されていた。
    「(次の事業の)アイデアを求めてあなたに会いに来た」と言うジョブズ氏。佐々木氏は信条である共創の哲学を、この米国人青年実業家にも説いた。「身なりは汚いけど目の力がすごかったんだよ。彼の目も孫君と一緒。もう、キラキラしていたなぁ」。ジョブズ氏が佐々木氏の言葉をヒントに生み出した代表作がiPhoneだ。ネットと電話を「共創」させてコンピューターを手のひらに載せたiPhoneは文字通り世界を変えていった。
    佐々木氏の薫陶を受けた2人の起業家の人生は後に交差する。米オラクル共同創業者のラリー・エリソン氏が、米シリコンバレーにある自宅の庭園で孫氏とジョブズ氏を引き合わせた。満開の桜の下で語り合ったという2人はすぐに意気投合する。
    孫氏が2兆円で英ボーダフォン日本法人を買収し携帯電話事業に参入した際には「最強のモバイルマシンを作れるのはあのクレージーな男しかいない」と考えてジョブズ氏の自宅を訪れる。言うまでもなく「クレージー」は孫氏にとって最大級の賛辞だ。
    その時、「マサ、これを見たらお前、パンツに漏らすぞ」と言ったのが初代iPhoneだった。孫氏はジョブズ氏が作ったiPhoneを独占調達して王者NTTドコモに真っ向勝負を挑んだ。
    佐々木氏は老境に達しても最新の技術動向に関心を持ち続けていた。

                                                                             (2016年11月、兵庫県内の施設にて

  • 老境に達した佐々木氏は兵庫県・塚口の施設で静かな余生を送っていた。記者が会ったのは1年余り前のこと。佐々木氏はすでに101歳になっていたが、新しいテクノロジーの誕生に胸を躍らせる感性はロケット・ササキと呼ばれた往年の頃となんら変わっていなかった。記者に新型半導体開発の記事を見せ、喜々として「これ、面白いだろ」と語る。その記事を掲載する雑誌の表紙を飾っていたのが、孫氏の写真だった。
    「孫君はまだまだ挑戦していくんだ、戦っていくんだ。あの頃と何も変わっていないな」
    そう言いながらまな弟子の写真に目を落とす佐々木氏の表情は、とても誇らしげだった。

〔 日経電子版(杉本貴司)から抜粋 〕